スタートアップが海外展開を進める際、シンガポール、米国、香港、ベトナム、インド、ドバイなどに海外子会社を設立するケースがあります。
海外子会社の設立自体は、事業拡大、人材採用、現地販売、資金調達、知財管理などの観点から有効な選択肢です。
一方で、日本親会社の法人税申告においては、通常の国内法人の申告とは異なる確認が必要になります。
特に、海外子会社との取引、海外子会社への資金移動、外国子会社合算税制、外国税額控除、海外子会社からの配当などがある場合には、法人税申告書に追加の別表・付表を添付する必要が生じることがあります。
海外子会社を設立しただけで、必ず特別な別表が必要になるわけではない
まず前提として、海外子会社を設立しただけで、日本親会社の法人税申告書に必ず特殊な別表が必要になるわけではありません。
例えば、海外子会社を設立したものの、まだ事業活動がなく、日本親会社との取引もなく、配当もなく、CFC税制の検討対象にもならない場合には、通常の法人税申告に大きな追加対応がないケースもあります。
しかし、スタートアップの場合、海外子会社を設立すると、設立直後から以下のような取引が発生することが少なくありません。
- 日本親会社から海外子会社への業務委託
- 海外エンジニア・現地人材の人件費負担
- 日本親会社による海外子会社費用の立替
- 日本親会社から海外子会社への貸付
- 経営指導料・管理料・ロイヤリティの授受
- 海外子会社から日本親会社への配当
- 低税率国・軽課税国への子会社設立
- 海外子会社に利益を留保するストラクチャー
このような場合には、追加の別表・付表の検討が必要です。
1. 海外子会社との取引がある場合:別表十七(四)
スタートアップで最も実務上出てきやすいのが、海外子会社との取引に関する別表です。
日本親会社と海外子会社との間で取引がある場合、通常、以下の別表を検討します。
別表十七(四)
国外関連者に関する明細書
海外子会社は、日本親会社から見ると「国外関連者」に該当することが多く、親子間で取引がある場合には、その取引内容を法人税申告書上で明細として整理する必要があります。
例えば、以下のような取引がある場合です。
- 海外子会社への開発業務委託
- 海外子会社からの営業支援・カスタマーサポート
- 日本親会社による費用の立替
- 日本親会社から海外子会社への資金貸付
- 親子間の管理料・経営指導料
- ソフトウェア、商標、ノウハウ等の使用料
- 商品・サービスの売買
特にスタートアップでは、海外子会社を「開発拠点」や「現地採用拠点」として設立するケースが多くあります。
この場合、日本親会社から海外子会社に支払う委託料や人件費相当額が、適正な価格であるか、契約書や請求書、業務実態が整備されているかが重要になります。
単に「海外子会社に送金した」という処理ではなく、税務上は、業務委託料なのか、立替金精算なのか、貸付金なのか、出資なのか、寄附金的な支援なのかを明確に区分する必要があります。
2. 移転価格税制への対応
海外子会社との取引がある場合には、別表十七(四)だけでなく、移転価格税制の観点も重要です。
移転価格税制とは、国外関連者との取引価格が独立企業間価格と異なる場合に、日本で課税所得の調整が行われる可能性がある制度です。
スタートアップでは、次のような場面で問題になりやすいです。
- 海外子会社に開発業務を委託している
- 海外子会社が日本親会社のサービス開発に大きく関与している
- 海外子会社に利益が過大に残っている
- 日本親会社が赤字で、海外子会社が黒字になっている
- 親子間契約書がない
- 委託料の算定根拠がない
- 原価に一定のマークアップを乗せているが、その根拠が不明確
移転価格税制では、申告書の別表だけでなく、契約書、業務内容、価格設定の根拠、成果物、請求書、送金記録などの証憑整備が重要になります。
3. CFC税制・外国子会社合算税制が関係する場合:別表十七(三)系列
海外子会社を低税率国に設立した場合や、海外子会社の実体が乏しい場合には、外国子会社合算税制、いわゆるCFC税制の検討が必要です。
CFCは、Controlled Foreign Companyの略です。
CFC税制とは、一定の外国関係会社に所得を留保することで日本での課税を回避することを防ぐため、一定の場合に海外子会社の所得を日本親会社の所得に合算して課税する制度です。
この場合、状況に応じて次のような別表を検討します。
- 別表十七(三)
添付対象外国関係会社の名称等に関する明細書 - 別表十七(三の二)
特定外国関係会社又は対象外国関係会社の適用対象金額等の計算に関する明細書 - 別表十七(三の五)
外国関係会社の課税対象金額等に係る控除対象外国法人税額の計算に関する明細書 - 別表十七(三の七)
特定課税対象金額等がある場合の外国法人から受ける配当等の益金不算入額等の計算に関する明細書
CFC税制では、単に税率だけで判断するのではなく、現地に事務所や従業員がいるか、現地で事業上の意思決定が行われているか、主たる事業に実体があるかなども重要になります。
スタートアップの場合、海外子会社を設立していても、実際の経営判断、開発方針、契約管理、資金管理がすべて日本親会社側で行われているケースがあります。
このような場合、「現地法人を作ったから海外事業である」と単純には整理できません。
4. 海外子会社から配当を受けた場合:別表八関係
海外子会社が黒字化し、日本親会社に配当を行う場合には、外国子会社配当益金不算入制度を検討します。
一定の持株割合や保有期間などの要件を満たす場合、海外子会社から受ける配当について、一定部分が日本親会社の益金に算入されません。
この場合、法人税申告書では、受取配当等に関する別表八関係の記載を検討します。
また、海外子会社からの配当について現地で源泉税が課される場合には、その源泉税の取扱いも確認する必要があります。
外国子会社配当益金不算入と外国税額控除は、単純に併用できるわけではないため、現地源泉税がある場合には、配当の処理、益金不算入、外国税額控除の関係を慎重に確認する必要があります。
5. 外国税額控除を使う場合:別表六(二)系列
海外で課税された税額について、日本親会社側で外国税額控除を適用する場合には、以下の別表を検討します。
- 別表六(二)
内国法人の外国税額の控除に関する明細書 - 別表六(二)付表一
国外事業所等帰属所得に係る所得の金額の計算に関する明細書 - 別表六(三)
外国税額の繰越控除余裕額又は繰越控除限度超過額の計算に関する明細書
外国税額控除は、海外で税金を払っていれば常に全額控除できる制度ではありません。
国外所得金額、控除限度額、現地税額の性質、租税条約、源泉税の証明書類などを確認する必要があります。
6. 海外子会社への資金支援がある場合の注意点
スタートアップでは、海外子会社が設立初期から黒字になるとは限りません。
むしろ、当初は日本親会社が海外子会社に資金を送金し、開発費、人件費、家賃、外注費などを負担するケースが多いです。
このとき、資金移動の性質を明確にする必要があります。
- 出資なのか
- 貸付なのか
- 立替金なのか
- 業務委託料なのか
- 寄附金的な支援なのか
特に、海外子会社が赤字で回収見込みが不明確な場合、日本親会社側で損金処理した費用について、税務上問題になることがあります。
また、無利息貸付や回収不能な貸付については、利息認定、寄附金、貸倒損失、為替差損益などの論点が生じる可能性があります。
7. スタートアップが海外子会社設立時に確認すべきチェックリスト
海外子会社を設立した場合、日本親会社の申告前に、少なくとも以下を確認することが重要です。
- 海外子会社の設立国
- 日本親会社の出資比率
- 海外子会社の決算期
- 海外子会社の税率
- 現地に役員・従業員・オフィスがあるか
- 現地で意思決定が行われているか
- 日本親会社との取引の有無
- 親子間契約書の有無
- 請求書・送金記録・成果物の有無
- 海外子会社への貸付・立替・出資の有無
- 海外子会社からの配当の有無
- 現地源泉税・現地法人税の有無
- 移転価格文書の整備状況
- CFC税制の検討要否
