連続起業家が、過去のEXITで得た資金を使って、もう一度スタートアップを立ち上げる。

このような場面では、エンジェル税制のうち 「起業特例」 の検討余地があります。

エンジェル税制というと、一般的には「個人投資家がスタートアップへ投資する場合の税制優遇」というイメージが強いかもしれません。

しかし、連続起業家が自ら次の会社を設立し、自己資金を出資する場合には、他社スタートアップへの投資ではなく、自分自身の再起業に対する税制優遇として、起業特例を検討することになります。

ただし、起業特例は「会社を作って出資すれば当然に使える」という制度ではありません。

特に、次のポイントが重要です。

・自ら営んでいた事業の単なる承継ではないこと
・新設会社が設立1年未満の中小企業者であること
・常勤の研究者または新事業活動従事者が2名以上いること
・販管費等の対出資金比率が30%超となる見込み、または実績があること
・外部資本を一定割合以上取り入れていること
・会社側の確認申請と、個人側の確定申告書類に漏れがないこと

本記事では、連続起業家がもう一度スタートアップを設立する場合に知っておきたいエンジェル税制の考え方、起業特例の位置づけ、重要要件、手続漏れが起きやすいポイント、メリット・デメリットを整理します。

連続起業家にとってのエンジェル税制とは

連続起業家にとって、エンジェル税制を検討する場面は大きく2つあります。

1つ目は、自分で次のスタートアップを設立して出資する場合です。
この場合に主に検討するのは、エンジェル税制のうち 「起業特例」 です。

2つ目は、他社のスタートアップへエンジェル投資を行う場合です。
この場合には、投資先のフェーズや要件に応じて、優遇措置A、優遇措置B、プレシード・シード特例などを検討します。

ここで重要なのは、自分で起業する場合と、他社スタートアップへ投資する場合では、検討する制度が異なるという点です。

特に、プレシード・シード特例は「自分で起業する場合」ではなく、他社スタートアップへの投資側の制度として整理するのが安全です。

したがって、連続起業家がEXIT後に自ら次のスタートアップを設立して出資する文脈では、中心となるのは 起業特例 です。

起業特例とは

起業特例とは、一定の要件を満たして個人が自己資金により会社を設立した場合に、設立時の出資額について税制優遇を受けられる制度です。

具体的には、会社設立時の出資額について、設立年の株式譲渡益から控除し、一定額まで非課税とする措置です。

連続起業家が、過去のM&AやIPOなどで得た株式譲渡益を使って、次のスタートアップを設立する場合に検討対象となります。

イメージとしては、次のようなケースです。

・過去に創業した会社を売却して株式譲渡益が発生した
・その資金を使って、次のスタートアップを設立する
・設立時に自己資金を出資する
・一定の要件を満たすことで、起業特例の適用を検討する

つまり、起業特例は、連続起業家がEXIT資金を次の起業に再投資する際の税制優遇といえます。

プレシード・シード特例との違い

ここは誤解が起きやすいポイントです。

プレシード・シード特例は、シード期などの創業初期スタートアップに対する投資について、一定の税制優遇を受けられる制度です。

ただし、これは基本的に、他社スタートアップへの投資を想定した制度として整理するのが安全です。

一方、連続起業家が自分で次のスタートアップを設立して出資する場合は、他社へのエンジェル投資ではありません。

この場合は、エンジェル税制のうち 「起業に対する措置」 として、起業特例を検討します。

整理すると、次のようになります。

ケース 主に検討する制度
自分で次のスタートアップを設立して出資する 起業特例
他社のスタートアップへ投資する 優遇措置A・優遇措置B・プレシード・シード特例
EXIT益を使って自分で再起業する 起業特例
EXIT益を使って他社のシード期スタートアップに投資する プレシード・シード特例または優遇措置B

連続起業家向けの記事では、まずこの切り分けを明確にしておくことが重要です。

起業特例で特に重要な要件

起業特例は、単に「新会社を設立して自己資金を入れれば使える」という制度ではありません。

特に重要なのは、次の要件です。

1. 発起人であること

起業特例の対象になるためには、設立した会社の発起人であることが必要です。

つまり、設立後に第三者割当増資で株式を取得するようなケースではなく、会社設立時の出資であることが重要です。

連続起業家が次のスタートアップを作る場合でも、設立時の出資設計を誤ると、制度の対象外になる可能性があります。

2. 金銭の払込みにより株式を取得していること

起業特例では、金銭の払込みにより株式を取得していることが必要です。

現物出資や、既存債権の出資化など、金銭払込み以外の形で株式を取得する場合には注意が必要です。

3. 既に営んでいた事業の全部を承継させたものではないこと

ここは連続起業家にとって非常に重要です。

起業特例では、設立した会社に自らが営んでいた事業の全部を承継させた個人や、その親族等は対象外とされています。

また、会社側にも、他の事業者から譲り受けた事業を主たる事業としていないことが求められます。

したがって、次のようなケースでは注意が必要です。

・個人事業をそのまま法人成りする
・既存会社の事業を新会社に移す
・前の会社や関係会社の事業を新会社に承継させる
・顧客、契約、従業員、知的財産、売上基盤などをそのまま移す
・実質的に既存事業の移管と見られる

起業特例は、連続起業家の再挑戦を後押しする制度ですが、既存事業の単なる付け替えや事業承継を優遇する制度ではありません。

そのため、「本当に新たなスタートアップ起業といえるか」は重要な確認ポイントになります。

4. 設立1年未満の中小企業者であること

起業特例では、設立した会社が設立1年未満の中小企業者であることが求められます。

また、企業要件の判定時点は、会社設立年の12月31日です。

設立時点だけでなく、年末時点で要件を満たしているかを確認する必要があります。

5. 新事業活動従事者等が2名以上いること

設立1年未満かつ最初の事業年度を経過していない場合、常勤の研究者または新事業活動従事者が2名以上であり、かつ、その人数が常勤の役員・従業員の10%以上であること等が求められます。

ここでいう新事業活動従事者とは、一般的には、新規製品やサービスの企画・開発に従事する人や、新規製品・サービスを市場に認知させるための広告宣伝・市場調査の企画を行う人をいいます。

単なる営業担当、事務補助、バックオフィス担当であれば、当然に新事業活動従事者に該当するわけではありません。

連続起業家が1人で会社を設立し、まだ常勤メンバーがいない段階では、この要件を満たせない可能性があります。

6. 「常勤役員2名」が必要という意味ではない

ここも誤解しやすいポイントです。

起業特例で求められるのは、常勤の研究者または新事業活動従事者が2名以上いることです。

必ずしも「常勤役員が2名必要」という意味ではありません。

対象者は、常勤役員でも正従業員でもあり得ます。

たとえば、常勤役員1名と正従業員1名が、それぞれ新事業活動従事者に該当する場合には、2名要件を満たす可能性があります。

一方で、代表者1名だけの会社や、アルバイト・業務委託中心の体制では、要件を満たせない可能性があります。

したがって、起業特例を検討する場合は、会社設立時から、誰が常勤役員・従業員に該当し、誰が新事業活動従事者に該当するのかを整理しておく必要があります。

7. 販管費等の対出資金比率30%超に注意すること

起業特例では、新事業活動従事者等の人数要件だけでなく、販管費等の対出資金比率30%超も重要です。

設立1年未満で、まだ最初の事業年度を経過していない場合には、事業の将来の成長発展に向けた事業計画を有していることが求められます。

この事業計画では、最初の事業年度末までの見込みとして、販管費等の対出資金比率が30%超となることが重要なポイントになります。

一方、最初の事業年度を経過している場合には、実績として、販管費等の対出資金比率が30%超であることが要件判定の一つになります。

ここでいう販管費等とは、販売費及び一般管理費をいいます。

したがって、起業特例を検討する場合には、単に会社を設立して出資するだけでなく、創業初期にどの程度の資金を事業開発、人材採用、広告宣伝、市場調査、プロダクト開発、管理体制構築などに投下する計画なのかを整理しておく必要があります。

特に連続起業家が自己資金を大きく入れる場合、出資金額が大きくなるほど、30%超要件を満たすために必要な販管費等の金額も大きくなります。

たとえば、出資金が1億円であれば、販管費等は3,000万円超が一つの目安になります。

出資金が5億円であれば、販管費等は1.5億円超が一つの目安になります。

そのため、起業特例を使う前提であれば、出資金額、事業計画、初年度の支出計画を一体で確認することが重要です。

8. 外部資本を一定割合以上取り入れていること

起業特例では、外部、すなわち特定の株主グループ以外からの投資を一定割合以上取り入れていることも要件とされています。

連続起業家が自己資金だけで100%出資する場合、この要件に抵触する可能性があります。

そのため、起業特例を使う場合には、自己資金の出資だけでなく、外部株主を入れる資本政策も含めて検討する必要があります。

ここは実務上、見落としやすいポイントです。

9. 未登録・未上場の株式会社であること

対象となる会社は、未登録・未上場の株式会社である必要があります。

合同会社や一般社団法人など、株式会社以外の形態で設立する場合には、起業特例の対象になりません。

10. 大規模法人グループに属していないこと

大規模法人グループの所有に属していないことも要件です。

大企業やそのグループ会社が実質的に支配する会社は、起業特例の対象外になる可能性があります。

連続起業家の場合、前職の会社、売却先企業、関係会社、資産管理会社などとの資本関係にも注意が必要です。

11. 風俗営業等に該当する事業を行っていないこと

風俗営業等に該当する事業を行う会社は対象外です。

事業内容が制度対象になるかどうかも、会社設立前に確認しておくべきです。

うっかり手続漏れが起きやすいポイント

起業特例で最も危ないのは、会社設立後に「そういえばエンジェル税制が使えるのでは」と気づくパターンです。

実務上、手続漏れが起きやすいのは次のような場面です。

1. 設立時の出資設計を確認していない

起業特例は、会社設立時の出資が重要になります。

誰が発起人になるのか、誰がいくら出資するのか、外部株主をどの程度入れるのか、株式数や払込金額をどう設計するのかを、税制適用の観点から事前に確認しておく必要があります。

後から株主構成や出資関係を修正することは簡単ではありません。

2. 自己資金を大きく入れすぎる

連続起業家の場合、EXIT資金を使って、新会社に大きな自己資金を入れることがあります。

しかし、起業特例では、販管費等の対出資金比率30%超が重要になります。

出資金額が大きくなるほど、30%超を満たすために必要な販管費等も大きくなります。

そのため、税制適用を考える場合には、出資金額だけを先に決めるのではなく、初年度の事業計画・支出計画と整合しているかを確認する必要があります。

3. 代表者1名だけで設立してしまう

連続起業家が1人で次の会社を設立するケースでは、新事業活動従事者等2名以上の要件を満たせない可能性があります。

起業特例を検討する場合には、創業メンバー、常勤役員、正従業員の体制を早い段階で確認する必要があります。

4. 業務委託・アルバイト中心で体制を作ってしまう

スタートアップでは、創業初期に業務委託や副業メンバーを活用することが多くあります。

しかし、新事業活動従事者等の要件では、常勤性や雇用形態が問題になります。

実質的にプロダクト開発をしている人がいても、業務委託やアルバイト中心の場合、要件上の人数に含められない可能性があります。

5. 既存事業の承継と見られる設計にしてしまう

前の事業、個人事業、関係会社の事業を新会社に移すような設計にすると、起業特例の対象外になる可能性があります。

特に、顧客、契約、従業員、知的財産、売上基盤などをそのまま新会社に移す場合には、既存事業の承継と見られないか慎重に検討する必要があります。

6. 払込日・設立日・譲渡益発生年の関係を確認していない

起業特例では、いつ株式譲渡益が発生し、いつ会社を設立し、いつ出資したかが重要になります。

連続起業家の場合、EXITのタイミングと次の起業のタイミングが近いこともあります。

そのため、株式譲渡益が発生した年、会社設立日、払込日、確定申告時期を一体で管理する必要があります。

7. 会社側の要件確認が後回しになる

起業特例では、設立した会社が一定の要件を満たす必要があります。

ところが、実務上は、会社設立、資金調達、採用、プロダクト開発などが先行し、税制要件の確認が後回しになりがちです。

結果として、設立後に要件を満たしていないことが判明する可能性があります。

8. 都道府県への確認申請を失念する

起業特例の適用を受けるには、会社設立後、都道府県に対して確認申請を行い、確認書の交付を受ける必要があります。

その確認書を発起人に提出し、発起人が確定申告時に税務署へ提出する流れになります。

会社側の確認申請と、個人側の確定申告がつながっている点に注意が必要です。

9. 確定申告時の添付書類が不足する

起業特例の適用を受けるには、確定申告時に必要書類を添付する必要があります。

会社側で確認書を取得していても、個人の確定申告で必要書類を添付しなければ、税制優遇を受けられない可能性があります。

税理士、会社側、発起人本人の間で、誰がどの書類を準備するのかを明確にしておくべきです。

10. プレシード・シード特例と混同する

連続起業家向けの説明で特に注意したいのが、プレシード・シード特例との混同です。

プレシード・シード特例は、他社スタートアップへの投資側の制度として整理するのが安全です。

自分で次のスタートアップを設立して出資する場合は、起業特例を検討する、という切り分けを明確にしておく必要があります。

起業特例のメリット

起業特例の大きなメリットは、EXITで得た資金を次の起業に回しやすくなることです。

連続起業家にとって、過去の成功で得た資金を新たなスタートアップ創出に使えることは、大きな意味があります。

また、起業特例を活用できれば、税負担を抑えながら自己資金を会社に入れられる可能性があります。

外部投資家に依存しすぎず、創業初期の資本政策を柔軟に設計しやすくなる点もメリットです。

さらに、連続起業家が自己資金を入れて次のスタートアップにコミットすることは、共同創業者、従業員、外部投資家に対する信用にもつながります。

起業特例のデメリット・注意点

一方で、起業特例には注意点もあります。

まず、要件確認と手続の負担があります。

会社設立、出資、株主構成、外部資本、新事業活動従事者、販管費等の対出資金比率、既存事業承継の有無、必要書類、確定申告まで、税制適用を意識して進める必要があります。

また、税制メリットがあるからといって、事業リスクがなくなるわけではありません。

次のスタートアップが必ず成功するとは限りませんし、出資した自己資金を回収できない可能性もあります。

さらに、税制を優先しすぎると、事業上・資本政策上の合理性を損なうおそれがあります。

たとえば、税制要件を満たすためだけに不要な支出を増やしたり、事業上必要のない外部株主を入れたりすることは、本末転倒になりかねません。

起業特例は有用な制度ですが、あくまで事業計画や資本政策と整合する範囲で活用すべきです。