近年、スタートアップの新しい資金調達手段として「ベンチャーデット」を活用するケースが急速に増えています。エクイティファイナンスによる株式の希薄化を抑えながら、次の成長に向けた運転資金を確保できる非常に有効な選択肢です。
一方で、ベンチャーデットに伴って金融機関やデットファンド等に新株予約権(いわゆるデットワラント)を発行する場合、資本政策上で必ず整理しておくべき論点があります。
それが、「ベンチャーデットの新株予約権は、SO(ストックオプション)プールに含めるべきなのか?」という問いです。
結論から申し上げると、資本政策上、SOプールとデットワラントは絶対に別枠で整理すべきです。その理由を、実務的な観点から解説します。
1. SOプールとデットワラントは「目的」が全く異なる
同じ「新株予約権」という仕組みを使いますが、両者の目的は真逆と言っていいほど異なります。
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SOプールは「人材戦略」のための枠
スタートアップは、創業期や拡大期に十分な現金報酬を出しにくい傾向にあります。それでも優秀な人材を採用し、長期的にコミットしてもらうために、将来の企業価値向上と報酬を連動させるストックオプションが不可欠です。つまり、SOプールは「優秀な人材の確保・リテンション・モチベーション向上」のための枠です。
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デットワラントは「資金調達」のための枠
これに対してベンチャーデットに伴う新株予約権は、役職員向けの報酬ではありません。金融機関やデットファンド等の貸手が、スタートアップへ融資を行う際のリスクや期待リターンを補填するために付与されるものです。つまり、「融資を実行してもらうための資金調達コスト」としての枠です。
目的が「人材戦略」と「資金調達」で明確に違う以上、資本政策上も明確に分けて管理しなければなりません。
2. 同じ枠で扱うと、本来の「SO枠」が圧迫される
もしSOプールとデットワラントを「新株予約権の総枠」として同じ箱で扱ってしまうと、本来採用やリテンションに使うべきSO枠が削り取られることになります。
例えば、完全希薄化後発行済株式総数の10%をSOプールとして想定していたとします。その中にデットワラント(例:1〜2%分)を含めてしまうと、役職員向けに実際に使える枠は8〜9%に減ってしまいます。
急成長フェーズのスタートアップでは、CxO候補、事業責任者、優秀なエンジニア、コーポレート責任者など、重要なコア人材を次々と採用していく必要があります。その勝負どころのタイミングで「提示できるSO枠が足りない」となれば、採用競争において致命的に不利になりかねません。
資金調達のためのワラントによって人材採用の武器が奪われるというような事態を避けるためにも、最初から別枠で整理しておく必要があります。
3. 資本政策表上も別々に「見える化」する
ベンチャーデットを検討する際には、カプテーブル(資本政策表)の上でも、SOプールとデットワラントを明確に行(ライン)を分けて表示することが重要です。
既存株主や、シリーズA・Bと続いていく将来の投資家(VCなど)に対しても、「これは将来の採用枠」「これは今回のデット調達に伴うコスト」と分けて説明できれば、余計な懸念を持たれることなく、スムーズなコミュニケーションが可能になります。
4. 投資契約書での「認識の齟齬」を弁護士と共になくす
資本政策上で「別枠」と整理していても、既存の投資契約書や株主間契約書の内容とズレていては意味がありません。
特に注意すべきは、契約書上の「オプションプール(Option Pool)」という文言の定義です。
会社側は「役職員向けのインセンティブ枠」のつもりでいても、投資家側が「新株予約権全体の枠」と捉えていると、いざベンチャーデットでワラントを発行する段階になって「契約違反だ」「既存のSOプールから出せ」と揉める原因になります。
そのため、次回ラウンドの契約交渉時やデット検討時には、必ず弁護士を交えて契約書の定義を確認し、認識の齟齬をなくしておくことが極めて重要です。
例えば、定義を役職員に限定するとかです。
| 「ストックオプション・プール」とは、本会社(またはその子会社)の取締役、監査役、執行役員、従業員、顧問、外部協力者等へのインセンティブを目的として発行され、または発行される予定のストックオプション(新株予約権)の対象となる株式の総数をいう。 |
また、新株予約権の発行には投資家の事前承諾が必要ですが、例外として認める枠を切り分けます。
| 本会社は、[投資家名]の書面による事前の[承諾/協議]を経ることなく、新株予約権等を発行してはならない。ただし、次の各号に掲げる場合はこの限りではない。(1) ストックオプション・プール(完全希薄化後発行済株式総数の[●]%を上限とする)の範囲内において、本会社の役職員等に対してストックオプションを発行する場合(2) 本会社の事業資金の融資(ベンチャーデット)に伴い、融資を行う金融機関等に対して、当該融資の対価またはリターン向上を目的として、完全希薄化後発行済株式総数の[▲]%を超えない範囲で新株予約権を発行する場合 |
契約書上の具体的な取り扱いについては、弁護士を交えて確認する必要があります。
