成長企業のバックオフィスでは、freeeとバクラクを併用するケースが増えています。

このとき、単純に、

「freeeとバクラク、どちらが便利か」
「どちらの機能が多いか」
「どちらに入力すべきか」

という比較だけで考えると、本質を見誤ります。

重要なのは、機能比較ではありません。

本質は、
現場が触る入口と、会計データを管理する中核をどう分けるか
です。

freeeは、会計データを集約し、経理・財務が正確な数字を管理するための中核システムです。

一方、バクラクは、現場から上がってくる経費精算、支払申請、稟議、承認フローをスムーズに処理するためのフロント側のワークフローシステムです。

つまり、freeeとバクラクの併用は、単なるツールの二重利用ではありません。

成長企業が、現場の使いやすさと経理の統制を両立させるための、バックオフィス設計の問題です。

1. SAP等の大手ERPでは、なぜ同じ議論になりにくいのか

この話をすると、経営者やCFOの方から、次のような質問を受けることがあります。

「SAPやOracleのような大手ERPでは、freeeとバクラクのようにツールを分ける議論は起きないのでしょうか?」

結論から言えば、SAP等の大手ERPでは、別ツールで防護壁を後付けするという発想にはなりにくいです。

なぜなら、ERPはもともと、会計、販売、購買、在庫、人事など、会社全体の業務プロセスを1つの大きなシステムの中で管理する思想で作られているからです。

ERPでは、財務会計、販売管理、購買管理、在庫管理などの業務領域が分かれています。

営業担当者は販売管理の領域で受注や請求に関わる情報を扱い、購買担当者は購買管理の領域で発注や検収に関わる情報を扱います。
その結果が、裏側で財務会計に連携され、仕訳や決算数値に反映されていきます。

つまり、ERPの中には最初から、

・現場が触る領域
・承認者が確認する領域
・経理・財務が管理する領域

を分ける思想が組み込まれています。

権限管理も、ユーザーやロールごとに細かく設計されることが前提です。

誰がどの画面を見られるのか。
誰がどの処理を実行できるのか。
誰が承認できるのか。
誰が会計データを修正できるのか。

これらを、システム全体の内部統制として設計します。

そのため、大手ERPでは、freeeの前にバクラクのような別システムを置いて「現場と経理を分ける」というより、ERP内部でその分離を作り込む発想になります。

2. freeeは「会計データの中核」として使う方が強い

一方、freeeはクラウド会計ソフトとして、会計データを効率よく集約し、経理処理、月次決算、経営管理に活用する点に強みがあります。

もちろん、freeeにも権限管理、申請、承認、請求書発行、未決済取引の管理、入金消込、未収管理などの機能はあります。

特にエンタープライズ版では、権限管理や内部統制に関する機能も強化されており、一定規模以上の企業でも利用しやすい設計になっています。

したがって、

「freeeでは権限管理ができない」
「freeeでは内部統制に対応できない」
「freeeでは成長企業に対応できない」

という理解は正確ではありません。

freeeは、成長企業の会計データを管理する中核システムとして十分に検討対象になります。

ただし、それでもSAP等の大手ERPのように、販売管理、購買管理、在庫管理、債権管理、債務管理、財務会計を、巨大な基幹システムの内部モジュールとして一体設計する思想とは異なります。

freeeは、会計データを中心に、請求、債権、支払、経費精算、ワークフロー等をクラウド上で統合していく思想です。

一方、SAP等の大手ERPは、受注、出荷、請求、債権、入金消込、購買、検収、債務、支払、会計反映までを、業務プロセス全体として作り込む思想です。

この違いを理解せずに、単に「freeeだけで全部できるか」「バクラクを入れるべきか」と考えると、システム設計を誤ります。

重要なのは、freeeを否定することではありません。

むしろ、freeeを会計データの中核として強く使うために、現場の入口、承認フロー、支払申請、請求管理、債権管理、販売管理、CRMなどを、どこまでfreee側で持つのか、どこから外部SaaSと役割分担するのかを設計することです。

3. freeeエンタープライズ版でも、設計論は残る

freeeのエンタープライズ版を使えば、権限管理や内部統制の水準は高められます。

そのため、小規模企業向けのクラウド会計というイメージだけでfreeeを評価するのは適切ではありません。

しかし、エンタープライズ版を使う場合でも、次のような設計論は残ります。

・現場社員にどこまで会計データを見せるのか
・経費精算や支払申請を、会計システム内で完結させるのか
・承認経路をどこまで複雑に設計するのか
・Slackなど、現場が普段使うツールとどう接続するのか
・承認済みデータを、どのタイミングで会計に連携するのか
・請求管理、債権管理、入金消込をどこまでfreee側で持つのか
・販売管理やCRMとの連携をどう設計するのか
・IPO準備や監査対応を見据えて、どの証跡をどこに残すのか

つまり、freeeのエンタープライズ版だから、バクラク等の周辺SaaSが不要になる、という単純な話ではありません。

逆に、バクラクを入れればfreee側の設計を考えなくてよい、という話でもありません。

freeeをどこまで広く使うのか。
バクラクをどこまで現場入口として使うのか。
他の請求管理、販売管理、CRM、支払管理システムとどう接続するのか。

この役割分担を設計する必要があります。

4. 債権管理・入金消込でも、ERPとクラウド会計では思想が異なる

この違いは、経費精算や支払申請だけでなく、債権管理や入金消込にも表れます。

SAP等の大手ERPでは、販売管理、請求、債権管理、入金、消込、会計反映までを、1つの業務プロセスとして設計するのが基本です。

営業・販売管理側で発生した請求データが、債権として管理され、入金情報と照合され、消込処理を経て、財務会計に反映されます。

つまり、販売、債権、入金、会計が、それぞれ別々の作業ではなく、同じシステム内の連続した業務フローとしてつながっています。

一方、freeeでは、請求・売上に対応する未決済取引を登録し、入金時にその未決済取引を消し込むことで、売掛金残高を管理します。

これはクラウド会計として非常に実務的な設計です。

ただし、組織が大きくなり、請求管理、督促、入金予定管理、営業部門との連携、与信管理まで含めて管理したい段階になると、会計ソフトだけで完結させるのではなく、請求管理システム、販売管理システム、CRMなどとの役割分担を検討する必要があります。

ここでも重要なのは、どのシステムが優れているかではありません。

「どの業務を現場側のシステムで処理し、どのタイミングで会計に連携するか」
を設計することです。

支払側だけでなく、請求・債権・入金消込についても、成長企業では同じ発想が必要になります。

5. バクラクは、freeeの前段に置く「現場用の入口」になる

バクラクは、経費精算、支払申請、稟議、承認フローなど、現場から発生する支出・申請業務を処理するためのワークフローシステムです。

金額、部門、費目、プロジェクトなどに応じて承認経路を分岐させたり、Slackと連携して承認・差戻し・コメントを行ったり、承認済みデータを会計ソフトに連携したりできます。

この仕組みを使うと、現場社員はバクラクで申請・承認を行い、経理は承認済みデータを確認したうえでfreeeに連携する、という役割分担ができます。

つまり、

・現場は、使いやすいワークフローで申請する
・承認者は、Slack等も使いながらスピーディに判断する
・経理は、承認済みデータの証憑、税区分、勘定科目、部門情報を確認する
・会計データの中核はfreee側で管理する

という二層構造です。

これは、ERPのような巨大なシステムを導入しなくても、SaaSを組み合わせることで、成長企業に必要な統制とスピードを両立させる設計だと言えます。

6. ERPを入れる前の成長企業に必要なのは「軽い統制設計」

急成長するスタートアップや中堅企業にとって、最初から大手ERPを導入するのは現実的でないことが多いです。

導入コストも、運用負荷も、社内に必要な専門人材も大きくなります。

一方で、社員数が増え、部門が増え、支払額が大きくなってくると、経費精算や支払申請を属人的に回すことにも限界が来ます。

請求や入金管理についても同じです。

最初は、経理担当者が請求書と入金明細を見ながら対応できていたとしても、取引先数、請求件数、入金件数が増えると、属人的な管理では限界が出てきます。

このフェーズで重要なのは、いきなり巨大なERPを入れることではありません。

むしろ、

・現場が触る入口
・承認のルール
・経理が確認するポイント
・会計データに連携するタイミング
・債権・債務をどこで管理するか
・未回収、未払、差戻し、承認待ちを誰が追うか

を分けて設計することです。

freeeとバクラクの併用は、そのための現実的な選択肢です。

freeeは会計データの中核。
バクラクは現場申請と承認の入口。

この役割分担を明確にすることで、経理の統制を守りながら、現場のスピードも落とさないバックオフィスを作ることができます。