スタートアップの経営者から「資産管理会社は作った方がいいのか?」というご相談を非常によくいただきます。結論からお伝えすると、「EXIT(出口戦略)としてIPOを前提としているか、それともM&Aを想定しているか」によって、資産管理会社を設立すべきかどうかの正解は180度異なります。
さらに、近年の税制改正(令和5年10月施行の同族会社合算ルールなど)により、従来の「資産管理会社を作れば一律で配当税率が下がる」という常識は通用しなくなっています。
資産管理会社(プライベートカンパニー)を設立すべき基準とは?
資産管理会社を設立すべき最大の分水嶺は、企業のEXIT戦略が「IPO(新規上場)」か「M&A(会社売却)」か、にあります。
- IPO(新規上場)を目指す場合:資産管理会社の設立を強く推奨します(受取配当金の節税メリットが最大化するため)。
- M&A(会社売却)を目指す場合:個人保有のままの方が税制面で有利になるケースが大半です。
【IPO前提】資産管理会社を設立する最大のメリットと「益金不算入」の仕組み
上場前のスタートアップ企業が配当を出すケースは稀ですが、IPO後は株主への還元として配当金を支払うようになります。この配当金を「個人」ではなく「資産管理会社」で受け取ることで、劇的な節税効果が生まれます。
個人の「大口株主」にかかる過酷な総合課税
通常の個人が受け取る配当金は、20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)の分離課税で完結します(確定申告不要を選択可能)。
しかし、創業者のような大口株主の場合、税負担が一気に跳ね上がります。
大口株主が受け取る配当金は、一律 20.42%(所得税・復興特別所得税) が源泉徴収された上で、必ず確定申告(総合課税)をしなければなりません。総合課税では給与所得などと合算されて最高税率(住民税と合わせて約55%)が適用されるため、配当金の大半が税金となってしまいます。
大口株主が受け取る配当金は、一律 20.42%(所得税・復興特別所得税) が源泉徴収された上で、必ず確定申告(総合課税)をしなければなりません。総合課税では給与所得などと合算されて最高税率(住民税と合わせて約55%)が適用されるため、配当金の大半が税金となってしまいます。
法人で受け取る「受取配当金の益金不算入」とは
配当金は、支払う側の法人段階ですでに法人税が課税された後の「残り香」です。そのため、受け取る側も法人(資産管理会社)にすることで、二重課税を防ぐための「受取配当金の益金不算入」という制度が適用されます。
法人の保有比率に応じて、受け取った配当金の全部または一部に法人税がかからなくなります。
1. 完全子法人株式等(保有比率100%)
- 不算入割合:100%(全額非課税)
2. 関連法人株式等(保有比率:1/3超)
- 不算入割合:全額非課税(ただし、配当額の一律4%に相当する負債利子控除額を差し引いた金額)
- ※令和2年度税制改正により、負債利子の計算は実費ではなく「一律4%」に簡素化されています。
3. その他の株式等(保有比率:5%超 〜 1/3以下)
- 不算入割合:50%が非課税(実質的に配当の半分にしか法人税がかからない)
4. 非支配目的株式等(保有比率:5%以下)
- 不算入割合:20%が非課税
IPO後も資産管理会社を通じて一定以上のシェア(1/3超、または5%超)を維持していれば、個人で受け取るよりも圧倒的に手元にキャッシュを残すことが可能になります。
【重要・税制改正】「資産管理会社へ分散」の裏をかく3%判定の罠
ここで最も注意しなければならないのが、令和5年(2023年)10月1日以降に支払われる配当から適用されている最新の税制改正です。
従来は、「個人で2.9%、資産管理会社で5%」のように、個人の持ち株比率を3%未満に抑えれば、個人側は総合課税(最高55%)を回避して20.315%の分離課税を選択することができました。
しかし、現在の法律では「個人+その人が支配する同族会社」の保有株式をすべて合算して3%以上かどうかを判定するルールに変わりました。
つまり、資産管理会社に株を移しても、グループ全体で3%以上を保有している創業者であれば、個人が直接受け取る配当分については依然として「総合課税(大口株主)」として扱われます。この改正を踏まえた精緻なシミュレーションが不可欠です。
つまり、資産管理会社に株を移しても、グループ全体で3%以上を保有している創業者であれば、個人が直接受け取る配当分については依然として「総合課税(大口株主)」として扱われます。この改正を踏まえた精緻なシミュレーションが不可欠です。
【M&A前提】なぜM&Aなら「個人保有」が有利なのか?
一方で、EXITがM&A(第三者への株式譲渡)になる可能性が高い場合は、資産管理会社を経由しない方が良いケースが多々あります。
個人売却と法人売却の「二重課税」の差
- 個人で株式を売却(M&A)した場合
譲渡益に対して、一律 20.315% の所得税・住民税だけで課税が終了します。どれだけ大きな売却益(数億〜数十億円)が出ても税率は一律です。 - 資産管理会社で株式を売却(M&A)した場合
一度、資産管理会社に約 30〜34% の法人税等がかかります。さらに、その売却益を原資として経営者個人が役員報酬や配当として会社から引き出す際、再び個人の所得税(最高55%)が課税されるため、「法人税+所得税」の二重課税になり、最終的な手残り額が大幅に減ってしまうリスクがあります。
保有割合に迷う場合のセカンドプラン
「現段階ではIPOかM&Aか判断がつかない」という場合は、「個人と資産管理会社で株式の保有割合を半々(50%ずつ)にしておく」というのも、実務上極めて現実的なミドルリスク・ミドルリターンの判断となります。
事業承継・相続対策を見据えた「資産管理会社の株主構成」
資産管理会社を設立するもう一つの大きな目的が、次世代(配偶者や子供)への円滑な資産承継です。
IPO後に多額の配当金が資産管理会社に入ってくる場合、会社の株主を「経営者単独」にするのではなく、最初から「配偶者や子供たち」にしておくことで、経営者個人の将来の相続財産(課税対象)が膨らむのを防ぎ、合法的に家族へ財産を移転できます。将来の遺産分割トラブルを避けるため、子供の数だけ資産管理会社を設立する創業者もいます。
コントロール権を渡さない「種類株式(無議決権株式)」の活用
「子供たちに株を持たせて資産は移転したいが、会社の経営権(議決権)は経営者本人が握っておきたい」
このような場合に活用されるのが種類株式(無議決権株式)です。
このような場合に活用されるのが種類株式(無議決権株式)です。
- 経営者:議決権のある「普通株式」を1株だけ保有(経営権を100%維持)
- 配偶者・子供:議決権のない「無議決権株式」を保有(配当や将来の資産価値を享受)
※権利内容の異なる複数の種類株式を発行するためには、株主総会の特別決議を経て、定款を変更する登記手続きが必要です。
子供たちへ出資資金を贈与する際の3つの鉄則
子供名義で資産管理会社の株を取得させる(出資する)際、税務署から「名義株(実質は親の金)」とみなされないよう、以下の手続きを完璧に行う必要があります。
- 贈与契約書の作成:未成年者の場合は、親権者(両親など)の同意と署名押印を必ず行います。
- 通帳平振込:手渡しではなく、必ず親の口座から子供名義の預貯金口座へ銀行振込を行い、資金移動の証拠を残します。
- 公証役場での確定日付の取得:贈与契約書に公証役場で「確定日付」を押してもらう(または公正証書化する)ことで、後から契約書を遡って偽造したのではないという客観的証拠(バックデートの否定)を担保します。
